「戦争で無駄死にする孫世代の代わりに、十分に長生きした私らをイラクに派遣せよ」
イラク戦争に抗議するため、2005年秋、タイムズ・スクエアの新兵募集センターに押しかけ、米軍に入隊しようとして逮捕されたおばあちゃんたち。私は、敬愛の念を込めて彼女たちを"反戦おばば"と呼び、本誌の昨年7月1週号では長大なインタビュー特集まで行った。
戦争を始めたブッシュはテキサスの実家に引きこもり、彼の政策に異を唱えて当選したオバマが大統領となった今、さすがの彼女たちも隠居し、毎日お孫さんの世話でもしているのかと思っていたら、決してそうではなかった。
イラク戦争開始からほぼ6周年という3月18日、彼女たちはまたもや新兵募集センターに出現。警察が犯罪現場で使う黄色いテープでセンターを封鎖し、再び逮捕されてしまったのだ。
新大統領を支持している彼女たちだが「来年8月末までのイラク撤退後も5万人の米兵を同地に残し、アフガニスタンの米兵を増やす」という方針には満足できず、戦争を早く終える(wrap up)よう、センターをぐるぐる巻き(wrap up)にすることで、新大統領、そして米市民にメッセージを送ったのである。
いやはや相変わらず元気一杯で、その戦闘意欲(反戦意欲か?)には微塵の衰えもない。
初の黒人大統領が誕生した祝賀気分に浮かれ、何もかも問題は解決したかのように錯覚していたのは、彼女たちではなく私だったのである。
そしてほぼ一カ月後の4月14日、逮捕されたおばば7人、自称「グラニー7」の面々を被告とする裁判がマンハッタンの地方裁判所で開かれた。
というか、開かれなかった。
私を含むごく少数の報道陣や支援者(逮捕されなかったおばばたち)を裁判所前に残し、弁護士とともに一足早く所内に消えた「グラニー7」だが、ほんの数分で外に出てきてしまったのだ。裁判を受けることなく無罪放免になったという。
「なぜこんなにあっさり放免に?」と尋ねる私に「裁判所はおばあちゃんたちに関わりたくないんですよ」と語る弁護士。よく分からないが、まあ喜んでいいのだろう。
いや、悲しむべきか。だって彼女たちは「裁判の場で反戦を思い切りアピールしてやる」と思っていたわけだから。一連の捨て身の行動は、反戦メッセージを世に広めるためのものなのだから。
「グラニー7」の一人、今回が初逮捕になる76歳のニディア・リーフさんは「喜びましょうよ。でも、変な感じだわね」と語り、他のおばばたちと同様、かなり拍子抜けした様子だった。
しかし、エネルギーを持て余し気味の彼女たちはすぐに盛り上がった。「今からタイムズ・スクエアへ行って、同じことをやってやりましょうよ!」「そうね! 今から行くわよ!」と叫ぶや、そのままデモ行進を開始したのだ。
痛む足腰をいたわりつつ10ブロックほど南下し、ゆっくりとセンターに到着したおばばたち。警官数名が何事かと駆けつけると、「あんたたち、本当の犯罪者を捕まえなさいよ」などと言って、軽く挑発した。
私は冷や汗をかいたが、彼女たちは平然とシュプレヒコールを上げ、そしてまたもや黄色いテープでセンターを封鎖してしまったのだった。