反戦おばば再逮捕、でもすぐ無罪

文と写真:細田雅大   雑誌掲載時:2009年 5月

アフガン増派に抗議

Grannies wrapping up the recruting center in Times Square

3月18日、黄色いテープ「CRIME SCENE DO NOT CROSS」(犯罪現場なので立入禁止)を張り巡らして、新兵募集センターを封鎖してしまったおばばたち。この直後に逮捕された

Grannies wrapping up the recruting center in Times Square

Grannies wrapping up the recruting center in Times Square with a CRIME SCERE sign

「CRIME SCENE」(ここは犯罪が行われている場所)という手作りの大きな張り紙まで貼られた

Anti-grannies showed up with the national flag

米国の軍事戦略を断固支持する人たちも現れた。米国旗を振りかざし、反戦おばばに対抗して持説を主張。「好戦おやじ」と呼ぶべきか。これこそ民主主義の正しい姿かもしれない

Acquitted grannies marching to Times Square

逮捕から一ヵ月後の4月14日、無罪を勝ち取ったおばばたちは、そのままタイムズ・スクエアへデモ行進

Grannies occupying the recruting center

タイムズ・スクエアの新兵募集センターに到着すると、さっそく入口前に陣取って......

Grannies wrapping up the recruting center again

またもや、テープでぐるぐる巻きにしてしまった!

 「戦争で無駄死にする孫世代の代わりに、十分に長生きした私らをイラクに派遣せよ」
 イラク戦争に抗議するため、2005年秋、タイムズ・スクエアの新兵募集センターに押しかけ、米軍に入隊しようとして逮捕されたおばあちゃんたち。私は、敬愛の念を込めて彼女たちを"反戦おばば"と呼び、本誌の昨年7月1週号では長大なインタビュー特集まで行った。
 戦争を始めたブッシュはテキサスの実家に引きこもり、彼の政策に異を唱えて当選したオバマが大統領となった今、さすがの彼女たちも隠居し、毎日お孫さんの世話でもしているのかと思っていたら、決してそうではなかった。
 イラク戦争開始からほぼ6周年という3月18日、彼女たちはまたもや新兵募集センターに出現。警察が犯罪現場で使う黄色いテープでセンターを封鎖し、再び逮捕されてしまったのだ。
 新大統領を支持している彼女たちだが「来年8月末までのイラク撤退後も5万人の米兵を同地に残し、アフガニスタンの米兵を増やす」という方針には満足できず、戦争を早く終える(wrap up)よう、センターをぐるぐる巻き(wrap up)にすることで、新大統領、そして米市民にメッセージを送ったのである。
 いやはや相変わらず元気一杯で、その戦闘意欲(反戦意欲か?)には微塵の衰えもない。
 初の黒人大統領が誕生した祝賀気分に浮かれ、何もかも問題は解決したかのように錯覚していたのは、彼女たちではなく私だったのである。


あっさり無罪で拍子抜け

 そしてほぼ一カ月後の4月14日、逮捕されたおばば7人、自称「グラニー7」の面々を被告とする裁判がマンハッタンの地方裁判所で開かれた。
 というか、開かれなかった。
 私を含むごく少数の報道陣や支援者(逮捕されなかったおばばたち)を裁判所前に残し、弁護士とともに一足早く所内に消えた「グラニー7」だが、ほんの数分で外に出てきてしまったのだ。裁判を受けることなく無罪放免になったという。
 「なぜこんなにあっさり放免に?」と尋ねる私に「裁判所はおばあちゃんたちに関わりたくないんですよ」と語る弁護士。よく分からないが、まあ喜んでいいのだろう。
 いや、悲しむべきか。だって彼女たちは「裁判の場で反戦を思い切りアピールしてやる」と思っていたわけだから。一連の捨て身の行動は、反戦メッセージを世に広めるためのものなのだから。
 「グラニー7」の一人、今回が初逮捕になる76歳のニディア・リーフさんは「喜びましょうよ。でも、変な感じだわね」と語り、他のおばばたちと同様、かなり拍子抜けした様子だった。
 しかし、エネルギーを持て余し気味の彼女たちはすぐに盛り上がった。「今からタイムズ・スクエアへ行って、同じことをやってやりましょうよ!」「そうね! 今から行くわよ!」と叫ぶや、そのままデモ行進を開始したのだ。
 痛む足腰をいたわりつつ10ブロックほど南下し、ゆっくりとセンターに到着したおばばたち。警官数名が何事かと駆けつけると、「あんたたち、本当の犯罪者を捕まえなさいよ」などと言って、軽く挑発した。
 私は冷や汗をかいたが、彼女たちは平然とシュプレヒコールを上げ、そしてまたもや黄色いテープでセンターを封鎖してしまったのだった。




前の記事に戻る  前書き&目次に戻る