A、B、C、D、E、F、辞書引く毎日、地味な日常
英語のトランスレーション、翻訳と通訳があなたの職業
A、B、C、D、E、F
30年ほど前の東京、俺は書店でひとりぶらり
大学受験のための勉強、ついにやっと終わったばっかり
使わないと忘れちゃいそう、覚えたばかりの英語が気がかり
紀伊国屋書店の階上、壁に貼られた英詩のくだり
置いてる本は洋書ばっかり、この場所こそがとっかかり
好奇心を持つ、それが大切、謎めく未知の南米小説
和訳のないスペイン語の大作、英語圏の国では既に英訳
例えばGabo、ガルシア・マルケス『El Amor en los Tiempos del Cólera』
英訳されてペリカン・ブックス『Love in the Time of Cholera』
書き込みだらけで捨てられない、古いペーパーバックがそれら
20年ほど前に出国、仕事を辞めた俺は無職
ニューオーリンズで学ぶ語学、世界の老若男女と通学
英語で学び、英語で生活、モラトリアムな自由を満喫
たしかに英語で広がる世界、彼らは俺を母国に招待
ドイツじゃ皆とレストランで乾杯、最初に出てきた器に液体
不思議なスープだ、ねっとり濃い、スプーンですくって俺は味わい
英語で伝えるこんな見解「This soup is delicious」
あれれ、皆さん、奇妙に沈黙、気まずげに一人がおっしゃる
「This is not soup. This is sauce」
え、これソース? つまり調味料? 飲んだりするもんじゃないでしょう
たしかに英語で広がる世界、恥かく機会も大いに拡大
10年ほど前にはアメリカ、マンハッタンのオフィスに通勤
つまりは俺もニューヨーカー? あのテロからは早くも7年
PTSDってあるのかないのか、自覚はないから、よう分からん
この俺だっていつ死ぬことか、carpe diem、ただでは死なん
そういう態度で出かけたパーティー、素敵なアメリカ女性と遭遇
やさしい瞳がとってもプリティー、そんな女がこの俺と付き合う
だけどもやがて行き違う、俺はなじる、彼女の言動
俺の英語もずいぶん向上、相手が傷つく武器に変貌
そんな俺への彼女のセリフ「You are getting manipulative」
岩をも砕く彼女の優しさ、言われて気づく自分の未熟さ
マニピュラティヴにはもうなるめぇ、それが俺の座右の銘
そして24時間ほど前、最初の準備は資料の再読
まずは確認、参加者の名前、専門用語を何度も音読
「机を離れてフロアに寝たまえ!」凝った体が俺に催促
尻をおろし前屈の構え、指を伸ばせば、つま先に着く
気分はまるで試合前、柔軟体操、ほぐれる筋肉
俺がいるのは松江の実家、これから始まる電話通訳
国際会議に電話で参加、顔は見ずに声だけを聞く
「ホントにお前にやれんのか?」不安がいつでも牙を剥く
舌は回るか? 時は来たか? 体を起こして息を吐く
A、B、C、D、E、F、辞書引く毎日、地味な日常
英語のトランスレーション、翻訳と通訳が私の職業
「え〜すご〜い」っておっしゃいますけど、いえいえまだまだ、今でも勉強
(Additional rap:
Tomoe & Chiyochee / Cover photo:
hikaru
Recorded at 講武のファミマのカラオケボックス)
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