解説① 逮捕、そして勝訴

 2005年10月。観光客で沸き返るマンハッタンのタイムズ・スクエア。米軍が民間人を兵士として登録する新兵募集センター前に、59歳から90歳までのおばば18人が現れ、「孫の代わりに私たちをイラクへ」と訴えた。しかしセンター側は無視。その場に座り込んだおばばたちは、「通行の邪魔だから解散せよ」という警察の指示を無視したため、全員逮捕された。
 「非を認め6カ月謹慎していれば、訴えを取り下げる」という検察側の司法取引をはねつけた彼女たちは、翌年4月、裁判に突入。1週間に及ぶ論戦を経て、見事に無罪を勝ち取った。
 ここでは、ジョーンさんの著書「Grandmothers Against The War - Getting Off Our Fannies & Standing Up For Peace」から、逮捕される直前の部分を翻訳して紹介したい。

Joan Wile's Book

 センターに到着した時、ドアには鍵がかかっていたの。ブザーを鳴らしてみたわ。でも応答はない。もういちど鳴らしたけど、誰も出てこない。センターに誰もいないみたいなの。
 とその時、机の後ろから若い男がぴょこっと顔を出したの。と思ったら、すぐに引っ込んじゃった。当時90歳で最高齢のメアリー・リュニオンばあさんなんか、杖でドアをがんがん叩いて「こらあ開けんかい。怠けず働け!」って叫んでた。でも、やっぱり反応はなし。こんな私たちを軍隊に入れないなんて、どうかしてるんじゃないかしら? タフな味方の米軍兵士ですら怖がって、机の後ろから出てこないのよ。どんな敵が来ようと、私たちなら震え上がらせてやるのに!
 私たちは声明を読み上げて、座り込んだわ。平和的で非暴力的な異議申し立てよ。よっこらしょって腰を下ろしたわけ。この年齢になって関節炎とか患ってると、腰を下ろすのだって一苦労。例えば私は5分ほどかかったわ。でも、なんとか15人が腰を下ろしたの。残りの3人は杖や歩行補助器で体を支え、そばに立ってたわ。
 そしたら制服を着た警官たちが現れた。太った警部補が拡声器で「解散しなさい」って言うの。でも、悪いことはしてないわ。反対意見を唱えるという憲法で認められた権利を行使しているだけだもの。だから、その場から動かなかった。警部補は再び「解散しろ」と言ったけど、私たちは動かない。たぶん、どうしていいか分からなくなっちゃったんでしょうね、彼は私たちを逮捕するよう命じたの。
 立ち上がるのは、座り込むのよりも大変だったわ。実際、私たちの多くが立ち上がれなかった。でも、ニューヨークの精鋭警官たちは、優しさを示してくれた。立ち上がれない私たちを持ち上げてくれたの。私たちの両手を後ろに回して手錠をかけたわ。優しかったわよ。「きつくないですか?」とか「手首を動かせますか?」とか聞いてくれた。カメラのフラッシュの中、私たちは車に乗せられ、警察署まで運ばれた。野次馬が叫んでたわ。「ここで股関節がしゃんとしてる人間は警官だけだな」って。




解説② 編み物で抗議

Granny at the Knit In

編み物は、テロリズムの対極にある抗議方法だ

Mary Ryunion at the Knit In

最高齢のメアリー・リュニオンさんも頑張って編んだ

Mary Ryunion asking the recruting center to allow enlistment

3年前と同様、「孫の身代わりになりたいので入隊させろ」と新兵募集センターに詰め寄るメアリーさん

Mary Ryunion talking to the press

入隊させてもらえず「年齢差別だわよ!」と報道陣に訴えた

 米国のイラク侵攻からちょうど5年となる2008年3月19日、おばばたちは再びタイムズ・スクエアに現れた。
 アメリカにはいろいろな抗議の形があり、それらにはよく「イン」が付く。座り込んで抗議するのがシット・イン(sit-in)。死者のように横たわるのがダイ・イン(die-in)。タバコ会社の前で大勢が一斉に倒れて横になる禁煙運動などがそうだ。
 60年代にはラブ・イン(love-in)があったという。ヒッピーたちが開いた愛の集会のことで、彼らは世界には愛が足りないと抗議していたわけだ。
 この日、おばばたちは編み物をした。だからニット・イン(knit-in)。
 その2週間ほど前の3月6日未明、何者かが新兵募集センターに爆発物を投げつけた。おばばたちは編み物をすることで、この爆弾犯にも抗議したのだ。暴力を通してではなく、平和的に異議を唱えること。イラクで負傷した兵士のために靴下を、イラクで死にそうな目に遭っている人々のために毛布を編む。編み物は、爆弾投下の対極にある抗議方法だ。
 5周年という節目だったせいか、編み物をするおばばたちの前には「反・反戦おばば」の市民も現れた。両者はフェンスで分けられ、衝突が起きないよう警官が見守った。反・反戦おばば派の声は大きい。「お前たち反戦おばばは、テロで3000人の命が失われたことをもう忘れたのか!」「まず勝利だ! その後で平和が来るのだ! 撤退は敗北だ!」
 反戦おばばたちの側を見れば、支持者の中にこそ熱くなって言い返す男性がいるが、おばばたち自身は静かに編み物をするだけ。その穏やかさが印象的だ。
 とは言えここでも、最高齢のメアリー・リュニオンさんは違った。新兵募集センターに一人で向かっていく。3年前と同様、「孫の身代わりになりたいので入隊させろ」と交渉したのだ。しかし、残念ながら今回も却下。報道陣に「これは年齢差別だわよ!」と訴えていた。
 ユーモアの切れ味も最高だ。





解説③ ショーン・ベル事件への抗議

 2008年5月7日午後、約1000人の抗議者がニューヨーク市の主要道路に座り込み、ブルックリン橋、マンハッタン橋、クイーンズボロ橋などの交通を遮断した。
 2006年にニューヨーク市クイーンズで起きたショーン・ベル殺害事件。この事件の容疑者である警官3人に対し、4月25日に無罪判決が出されたことへの集団抗議だった。当時23歳だったベルは、自らの結婚式の行われる当日未明、バチェラー・パーティー(結婚前夜、花婿のために開かれる男だけのパーティー)を終えたクラブから出た後、警官による50発の銃弾を受け死亡したのだ。
 集団抗議による逮捕者は216名に及んだ。その多くが、警察へ提示するための身分証明書を事前に用意しておくなど、逮捕されることを想定済みだった。
 逮捕者の中には、ベルの婚約者であったニコール・ベルも含まれていた。